野田 ナオ / Noda Nao
0.プロフィール
はじめまして、野田ナオと申します。
私は千葉大学工学部建築学コースで建築を学び、現在は同大学院の建築人間工学研究室に在籍し、研究・制作に取り組んでいます。
私のクリエイションの根底には、一貫して「関係性のデザイン」という探求テーマがあります。建築で培った空間や人への洞察、そして研究を通じて深めた論理的思考とテクノロジーへの理解を融合させ、「人、空間、モノ、そして社会」の間に生まれる、目に見えないつながりや相互作用を考え、具体的な形にすることに情熱を注いできました。特に、「人を喜ばせたい、驚かせたい」という気持ちが、私のものづくりの大きな原動力になっています。
このポートフォリオでは、私の多岐にわたるプロジェクトを通して、「関係性のデザイン」へのアプローチと、その思考プロセスがどのように具現化されたかをご紹介しています。アートとテクノロジーの融合、空間を通じたコミュニティづくり、そして人間心理への探求——様々な取り組みを通して、私の幅広い興味と、ものづくりへの熱意をお伝えできれば幸いです。
ぜひご高覧いただき、少しでもご興味をお持ちいただけましたら幸いです。


スキル
CAD & デザイン:ArchiCAD, Illustrator, Photoshop
開発 & VR:Python, Vizard
その他使用経験のあるツール 
Rhinoceros/Grasshopper, Blender, Twinmotion, TouchDesigner, Arduino

略歴
2021.3 千葉県立 千葉東高校 卒業
2021.4 千葉大学 工学部 総合工学科 建築学コース 入学
2024.4 建築人間工学研究室 配属
2025.3 千葉大学 工学部 総合工学科 建築学コース 卒業
2025.4 千葉大学大学院 融合理工学府 創成工学専攻 建築学コース 博士前期課程 入学
2027.3 千葉大学大学院 融合理工学府 創成工学専攻 建築学コース 博士前期課程 修了見込み
コンテンツ
0.  プロフィール
1.「ami」卒業設計
2.「intersection」チーム制作
3.「デスクパーティションの不透明パターンが作業環境の閉塞感に与える影響」卒業研究
4.「shy trash bin」インタラクティブアート
1.「ami」卒業制作
つながりを紡ぎ、新たなコミュニティを創造する建築
プロジェクト概要
過疎化・産業の衰退が進む千葉県銚子市の港町を舞台に、伝統産業の担い手と新たな創造を担う多様な人々が共存・協業する道を模索。職種や世代を超えた交流を誘発し、街全体が「創造のネットワーク」として再活性化することを目的とした、新しい複合施設の提案です。
プロセス
・本質的な「つながり」の再定義
プロジェクトの出発点は、多くの港町が抱える「産業の衰退とコミュニティの希薄化」という漠然とした課題でした。当初は、デザイン性の高い建築で若者を呼び込むといった単一的なアプローチを検討していましたが、現地リサーチを重ねる中で、港で働く人々の豊かな経験知や独自の文化がこの街の「見過ごされた資産」であることに気づきました。本当の課題は「人をただ呼び込む」ことではなく、「多様な人々を繋ぎ、化学反応を起こすことで、新しいつながりを築き、街全体を活性化させること」だと再定義したのです。このプロセスでは、表面的な事象の裏に潜む本質的な要素間のつながりを深く洞察することの重要性を学びました。
・風景に多層的な「つながり」を織り込む建築言語
リサーチで心に残った港町の坂道に架かる電線の風景を、単なる形態の模倣に留めず建築に取り入れました。このモチーフに「①風景の記憶(まちとのつながり)」「②ネットワークの象徴(人々と街のつながり)」「③建物全体の構造体(機能と構造のつながり)」という3つの役割を持たせることで、プロジェクトの理念である多様なつながりの創出を物理的に、そして象徴的に表現する建築言語へと昇華させています。
・異なる「生活リズム」を共存させる空間設計
生活リズムが全く異なる多様な人々をどうすれば自然に交流させられるか、という点は、このプロジェクトにおける一つの大きな挑戦でした。それぞれの活動領域の独立性を確保しつつ交流を促すため、各機能を隣接させながらも、碁盤の目状の動線と、あえて互いの活動が垣間見える「隙間」によって緩やかに繋がる空間を計画。さらに、中央に誰もが使える「コラボレーションダイニング」を触媒として設けることで、偶発的な出会いから意図的な協業までを誘発する、多層的な交流、すなわち豊かな人々の結びつきを育む仕掛けを実装しています。
最終デザイン
街の風景を織りなす電線に着想を得たケーブルが、施設全体を覆うファサード。多様な人々の活動が交差する「ネットワーク」を象徴すると同時に、建物全体を支える構造フレームとしての役割も担います。
碁盤の目状の動線が、港の機能と創造の機能を繋ぎ、施設全体の回遊性と偶発的な出会いを創出します。中央のダイニングが全体のハブとして機能します。
港町特有の起伏ある地形に呼応するように、建物のボリュームを分節化し、リズミカルに配置しました。全体を覆うケーブルの柔らかな輪郭線が、新たな建築群を周囲のランドスケープに溶け込ませます。
AR模型
設計案をAR模型として可視化しました。内外を自由に行き来できるため、イメージ共有が飛躍的に向上します。また、デジタルデータであるため、その場での修正やバリエーションの検討も容易に行える点が強みです。
学び
建築単体の設計に留まらず、それがもたらす「人の活動」や「コミュニティの未来」、そしてそれらの間に生まれる相互作用や結びつきまでを構想する重要性を深く学びました。特に、異なる背景を持つ人々の利害を調整し、一つの空間に統合するゾーニングの難しさと、その先にある新しいつながりから生まれる、想像を超える価値創造の可能性を実感できたプロジェクトです。
2.「intersection」チーム制作
地域と施設、人と人との「交差点」をデザインする
プロジェクト概要
多様なエリアが混在する墨田区文花を敷地に、日本人学生と留学生から成る国際チームで取り組んだ高齢者施設の設計課題です。高齢化に伴う社会的孤立という課題に対し、施設を閉じるのではなく「まちの交差点」として地域に開放。人々が自然と行き交う建築によって、高齢者が社会とのつながりを実感できる、新たな福祉施設のあり方を提案します。
機能配置ダイアグラム。交差点を中心に、高齢者住宅、特別養護老人ホーム、図書館、カフェといった機能が隣接し、互いに連携することで地域全体のハブとなる。
上空に巡らされたデッキと屋上の路。歩く人々の視線が立体的に交差し、常に人の気配が感じられる「街のような風景」を創出します。
プロセス
・地域との「接点」を再構築
プロジェクトの始点にあったのは、従来の閉鎖的な高齢者施設が、高齢者の孤立という社会課題の解決から程遠いという違和感でした。解決の糸口を求めリサーチを重ねる中で、教育・ものづくり・住居といった多様な機能が混在する敷地の「まちの交差点」というユニークな特性に辿り着きました。この特性こそ、施設が高齢者と地域、異なる世代との新たな接点を生み出す可能性を秘めていると感じました。
・「街路」を施設内に引き込む
当初チームは「地域に開かれた施設」を目指しましたが、カフェ併設といったありきたりな案に留まり、議論は停滞していました。真の交流には、より強力なコンセプトが必要だと感じていました。そこで、「施設を開く」のではなく「まちの交差点を丸ごと施設内に引き込む」という大胆な視点の転換を提示。施設内を誰もが通り抜けられる「街路」を作るという考えが、停滞していた議論を動かし、人々や機能の間に偶発的で豊かな交流や連携を生み出すコアコンセプトとなっていきました。
コンセプトダイアグラム。敷地の特性である「交差点」から着想し、ボリュームを分割・配置し、立体的な動線と屋根を重ねていく。
・異文化チームでの協働
日本人と留学生から成るチームでは、文化的背景や設計思想の違いから、目指すビジョンの共有が壁として立ちはだかりました。言葉のニュアンスの違いで議論がすれ違い、チームの推進力が失われかけたのです。コンセプトの原案者として、言葉だけに頼らずに、スケッチやスタディ模型を中心に意思疎通を図ることで、目指す空間のイメージを「視覚的に」共有することに注力。この「翻訳」ともいえるプロセスを通じて、チーム内の異なる視点の融合を図り、多様な意見を設計に昇華させることに成功しました。
最終デザイン
平面図(1F-4F)。中央の交差点を核として、高齢者住居と地域に開かれた諸機能が四方に配置される。
環境計画断面図。自然通風や採光、雨水利用を取り入れたサステナブルな設計。快適な居住環境と環境負荷の低減を両立する工夫を示しています。
建物の中心に引き込まれた「交差点」。カフェやマルシェが開かれ、施設入居者と地域住民が自然と交流する賑わいの中心となります。
屋上緑化されたテラス。多様な居場所が施設の内外に散りばめられ、人々のアクティビティが風景に溶け込みます。
学び
地域の文脈から社会課題への建築的解決策として「交差点」というコンセプトを立案・具体化する力を養いました。また、国際的なチームで「伝える」役割を担い、多様な意見を一つのビジョンへと昇華させ、アウトプットの質を高める協働力を実践的に学びました。
3.「デスクパーティションの不透明パターンが作業環境の閉塞感に与える影響」卒業研究
人間と環境の最適な「関わり」を科学的に探求する
研究背景・目的
オフィスでの集中力向上に有効なパーティションですが、高く囲うほど閉塞感が生まれ、コミュニケーションを阻害する課題があります。本研究では、このトレードオフ関係に着目し、パーティションの「不透明パターン」をデザインすることで、閉塞感を抑えつつ集中できる、より快適な作業環境の実現を目的としました。
プロセス
・視点の転換
当初はパーティションの「高さ」や「配置」のみを検討していましたが、先行研究を調査する中で、人の心理には「視線の抜け」が大きく影響することに着目しました。そこで、壁で物理的に遮るのではなく、「見え方を制御する」というアプローチへ転換。パーティションの不透明度やパターンを変化させることで、プライバシー(集中)と開放感(コミュニケーション)という相反する要素の最適なバランスを、いかに引き出せるかという仮説を立てました。

・VRによる実験環境構築
多様なパターンを効率的かつ公平に評価するため、没入型仮想環境(IVE)での心理評価実験を行いました。VRプラットフォーム「Vizard」を習得し、3Dモデルでオフィス空間を再現。さらに、パーティションの高さ・不透明度・パターンを動的に変更するシステムをPythonスクリプトで実装し、人間と空間に影響を与える様々な要因を客観的に検証するための実験環境を自ら構築しました。
・データに基づく客観的なデザイン評価
実験で得られた被験者の主観評価は、客観的な分析が求められます。Pythonを用いて統計手法である「二元配置分散分析」を実施し、「不透明度40%が閉塞感の閾値である」ことや、「光の透過量が同じでもパターンによって印象が異なる」といった知見を得ました。これらのデータは、直感的なデザイン判断に科学的根拠を提供するものです。
主な結果
・閉塞感の閾値:
パーティション上部の不透明度が40%あたりを境に、人が感じる閉塞感の評価が変化する可能性が示唆されました。 
・パターンの重要性:
全体の光の透過量が同じでも、パーティションのパターン(グラデーションか、一様な半透明か)によって閉塞感の感じ方が変わることが分かりました。 
・グラデーションと閉塞感:
今回の実験条件下では、一様な半透明パターンよりも、グラデーションパターン(透明から不透明へ滑らかに変化する)の方が閉塞感を抑えられる、という結果になりました。
この研究の意義
パーティションの不透明度やパターンを適切にデザインすることで、ワーカーのプライバシー(集中)と開放感(コミュニケーション)を両立できる可能性を示しました。 この知見は、働く人の知的生産性を高める、より快適なオフィス空間の設計に貢献できると考えています。
学び
本研究を通じ、課題に対して適切な手法を自ら学び(VR/Python)、データに基づいて客観的な結論を導き出す、一連の問題解決プロセスを体系的に実践しました。特に、論理的な思考を学術論文として構築するアカデミックライティングのスキルは、自身の大きな成長に繋がったと確信しています。
4.「shy trash bin」インタラクティブアート
人とモノの「気配」が生み出す新たなコミュニケーション
プロジェクト概要
授業「デザイン・エンジニアリング論/演習」において、「こころ動かす動き」をテーマに制作しているインタラクティブアートです。コンセプトは、人とモノとの間に生まれる「気配」という無意識の感覚の可視化。人が近づくと驚いて蓋を閉じるゴミ箱を通じて、私たちが普段意識しないモノとの関係性を問い直し、新たなコミュニケーションの可能性を探ります。
プロセス
・「気配」の具現化
「こころを動かす」という抽象的な課題に対し、私はまず、人とモノとの間に存在する、目には見えないが確かに感じる「気配」や「視線」に着目しました。この感覚的なつながりをどうすれば可視化できるのか。思考の末、最も身近な存在でありながら意識されることの少ない「ゴミ箱」をモチーフとすることに思い至りました。もし、そのゴミ箱がまるで生命体のように私たちの存在に反応したら、人はどう感じるだろうか。この問いは、人間と非生命体の間に新しいつながりを築き、そこに感情移入を生む試みでもありました。
・感情を宿す動き
この仮説を検証するため、アイデア出しから実装までのサイクルを短期間で繰り返すプロトタイピングを開始。当初は単に人が近づくと蓋が閉まるだけの単純な機構でしたが、鑑賞者に「驚き」や「戸惑い」といった感情を抱かせるには、動きの「質」こそが重要だと気づきます。「素早く隠れる」「おそるおそる様子をうかがう」「安堵してゆっくり開く」といった一連の感情的な動きを表現するため、Arduinoを用いてセンサーの反応やモーターの速度を調整。ハードとソフトの両面から、人間とモノの間の相互作用に「生命感」を与えるため、試行錯誤を重ねました。
今後の展望
現在は、より「気配」を感じるような動きを検討しています。また、より大きなサイズのゴミ箱でこのインタラクションを実現するため、耐久性や応答性を高める機械設計も検討しています。
学び
抽象的なコンセプトを具体的な体験へと落とし込むプロトタイピング能力と、Arduinoを用いた電子工作スキルを習得しました。特に、ハードとソフトの両面から「生命感」という体験価値を追求し、人の感情に働きかけるインタラクションをデザイン・実装する能力を実践的に学びました。
おわりに
この度は、私のポートフォリオを最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。
私のこれまでの研究やプロジェクトは、一貫して「関係性のデザイン」というテーマに集約されます。建築空間における人と人のつながり、データに基づく人間と環境の相互作用、そしてインタラクティブアートにおける人とモノの対話——これら多角的な視点からつながりの本質を深く洞察し、新しい価値として形にしてきました。論理的な思考とクリエイティブな発想を自由に行き来しながら、多様な専門性を持つメンバーと協力して一つのものを創り上げるプロセスに、大きなやりがいと喜びを感じています。
私は建築学で培った堅実な視点に留まらず、アートやテクノロジーへの尽きない好奇心を持って、常に新しい可能性を探求しています。この多分野にわたる興味と、「関係性のデザイン」を通じて「人を喜ばせ、驚かせる」体験を創造したいという情熱は、あらゆるクリエイティブ領域において、社会に貢献できる独自の強みであると確信しています。
このポートフォリオが、皆様との新しい繋がりのきっかけとなれば幸いです。私の考え方や、これまでの経験、そしてものづくりへの姿勢にご興味をお持ちいただけましたら、ぜひお気軽にご連絡ください。

野田ナオ

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