研究背景・目的
オフィスでは集中力を高めるためにデスクパーティションが有効ですが、高く囲いすぎると閉塞感や孤独感を生み、コミュニケーションを阻害する課題があります。 そこで本研究では、閉塞感を抑えつつ集中できる作業環境を目指し、パーティションの「不透明パターン」(グラデーションなど)が人の心理にどのような影響を与えるかを検証しました。
研究手法
没入型仮想環境(IVE)技術を用いてオフィス空間を再現し、被験者による心理評価実験を2段階で行いました。
・実験1:被験者が「集中しやすい」と感じるパーティションの高さや不透明度の範囲を探りました。
・実験2:グラデーションの有無など、不透明パターンの具体的なデザインの違いが「閉塞感」にどう影響するかを分析しました。
主な結果
・閉塞感の閾値:パーティション上部の不透明度が40%あたりを境に、人が感じる閉塞感の評価が変化する可能性が示唆されました。
・パターンの重要性:全体の光の透過量が同じでも、パーティションのパターン(グラデーションか、一様な半透明か)によって閉塞感の感じ方が変わることが分かりました。
・グラデーションと閉塞感:今回の実験条件下では、グラデーションパターン(透明から不透明へ滑らかに変化する)よりも、一様な半透明パターンの方が閉塞感を抑えられる、という結果になりました。
この研究の意義
パーティションの不透明度やパターンを適切にデザインすることで、ワーカーのプライバシー(集中)と開放感(コミュニケーション)を両立できる可能性を示しました。 この知見は、働く人の知的生産性を高める、より快適なオフィス空間の設計に貢献できると考えています。
学んだスキル
・没入型仮想環境を用いた実験環境構築:VR開発プラットフォームVizardを習得し、心理評価実験のための仮想空間を構築しました。3Dモデリングによるオフィス空間の再現に加え、「パーティションの高さ・不透明度・パターン」をパラメータとして動的に変更するシステムをPythonスクリプトで実装しました。
・Pythonを用いた統計解析:実験で得られた被験者の主観評価値に対し、Pythonを用いた統計解析を行いました。二元配置分散分析を実施し、データに基づいた客観的な結論を導き出すスキルを実践しました。
・アカデミックライティング:研究成果を論理的かつ説得力のある学術論文としてまとめるスキルを学びました。先行研究の調査と引用、研究手法の明確な記述、結果と考察の分離、そして研究全体の意義の提示といった、論文執筆の一連のプロセスを体系的に実践しました。